もりのくまさんのハナシ

先日、なかなかの風雨の強い御成通りにて、若い女性３人組が歩いていました。

そしてひとりの折り畳み傘が風に煽られ、その拍子に傘袋が私の方へ飛んできたんです。

私も傘と荷物で手が塞がっていたので小走りで彼女たちを追い、袋を落とした女性に「すみません！」と声をかけると、振り向いた彼女の顔は、驚きの表情から一瞬にして警戒の表情になりました。

私はスーツを着ていて髪型もツルンとしているので、彼女にしてみればチンピラDQNおじさんにいきなり声をかけられた！襲われる！いや、存在が…なんかムリ！と思ったのでしょう。

私が「傘袋、落としてますよ」と目配せをして伝えると、彼女は私を疑ったことを詫びるように小さく「ありがとうございます」と言い、スタスタとその場を立ち去ったのでした。

私はひどく傷つきました。

そしてこれが私ではなく植田祐全だったら黄色い声で「ありがとうございます！お礼に…」なんて言われたのだろうとも考えました。

もう二度と人に優しくするものか！

これじゃまるで「もりのくまさん」だな！

こうしてくまさんも傷ついて、人間を恨み、人喰い熊になったんだろう！

そう心の中でひとり、ツイスト＆シャウトしたのです。

しかし改めて「もりのくまさん」の歌詞を確認すると…

あるひ もりのなか くまさんに であった

はなさく もりの みち くまさんに であった

くまさんの いうことにゃ おじょうさん おにげなさい

スタコラ サッサッサのサ スタコラ サッサッサのサ

ところが くまさんが あとから ついてくる

トコトコ トッコトッコト トコトコ トッコトッコト

おじょうさん おまちなさい ちょっと おとしもの

しろい かいがらの ちいさな イヤリング

あら くまさん ありがとう おれいに うたいましょう

ラララ ラララララ ラララ ラララララ

くまさんは出会った瞬間に「お逃げなさい！」と言い、しかしお嬢さんが白い貝殻の小さなイィヤァリィングゥを落としたため、追いかけてその旨を伝えた。

そして最終的にお嬢さんとラララ ラララララした訳です。

私は一瞥され、人間なんてララ ララララ ララしたというのに。

私とくまさんの違いは第一声です。

「すみません」ではなくて、「お逃げなさい」と言うべきだったのです。

次に似たような場面に出くわしたなら、大きな声で「お嬢さん！お逃げなさい！」と言おう。

私は三月の夜空を見上げ、オリオン座の三つ星に彼女たちを重ねながら、そう心に誓ったのでした。